オンライン授業、家庭学習プリント作成、動画コンテンツ…と、この緊急事態下において全国的に教育の在り方が変わってきていますね。
そんな中で、私個人の意見としては、基本的な教材作成は教員の仕事ではないと考えているのですが、とはいえ、様々な事情により、学習プリントや家庭学習の指示書、オンライン授業で使用する教材、資料、その他様々な場面でプリント資料、プリント教材を作る機会は少なくないでしょう。
しかし、教員は「授業」については専門であり、大学で勉強し、採用後も継続して日々研究をしています(しているはず)。ですが、実は印刷物などのプリント作成のスキルについては全くといって良いほど専門外ですよね。もちろん中にはデザインが得意という先生もいらっしゃるでしょうが、ごく少数。
また、資料作成のセオリーは手描きの絵の上手下手などとは関係がありません。
昨今のコロナ禍で、プリント作成を余儀なくされている先生の多くは苦痛を感じていることは想像に難くありません。しかし、そんな中でも授業を行えない現状で、他に熱意を注げる場所もなくプリント作成に心血注いで一生懸命作られている先生もまた少なくないでしょう。
せっかく作るのですから、”使える資料“として完成させたいですよね。是非、ご一読いただき、活用していただければと思います。
プリント作成の基本
重複した指示を書かない
先生はできるだけ丁寧に説明しようと心がけて、過剰に言葉をかけすぎる傾向があるように思います。それは言葉で伝えるときには一定の効果もあるかもしれませんが、文字伝達の場合はかえって子供の理解を阻害することになってしまうことも。
例えば、この資料例を見てください。まず、最初に子供がとるべき行動はなんでしょうか。
おそらくは「教科書の20ページを開くこと」でしょう。しかし、その指示はどこを見たらわかるでしょうか。
次の図を見てください。
この例の場合、教科書のページを掲載して理解を助けようとしています。しかし、すでに教科書のコピー部分にページ数が記載されている上に、左側の指示の流れを書いた側でも3回に渡ってページ数を指示しています。
この例では、左側が先生からの指示、右側が教科書ということで、擬似的に授業の流れを再現しようとしているのでしょう。左が、本来ならば授業で先生が話すことを想定した、台詞のような指示が書き込まれています。
これが指導案で、この通りに担任が教室で口頭で話しながら授業を展開していくのであればこの方法もありかもしれません。しかし、この資料は家庭での学習用として、子供が自習できるようにするための「指示書」なのです。
であれば、子供は何度も「同じ指示の文章」を読み理解しようとしてなくてはならなくなります。
ただ「20ページを開く」という指示だけでも何度も読まなくてはならない上に、自分がするべき動作・活動の指示なのか、課題に対する解説なのか、そういったことの切り分けまでしていかなくてはならず、なんとも非効率な資料になっていることがわかるでしょうか。
書かない勇気をもつ
また、流れを通していくと最終的に今回の学習内容でたどり着くところが「まとめ」です。算数を例にすると、書く課題ごとに「まとめ」があり、往々にして授業でもここを写し書きして学んだことになっている授業展開をされたりしていないでしょうか。しかし、本来「まとめ」とはその学習において、子供たちから出てきた「気づき」をもとに考察し得られた結果のはずです。子供の考察なくして「まとめ」だけを模写したところで小学校教育における「学び」はありません。
また、単に写すだけであれば、そもそも教科書に書いてある言葉ですので、写し書く意味はなんでしょうか。さらには、ここまでの流れを十分に理解していない場合、「まとめ」の文言をただ読みあげるだけに何の効果があるでしょうか。
理想を言えばここは自分で考えた解き方、他の人(友人や教科書に登場する人物達の考え方)の解き方を比較するなどしながらめあてに迫っていき、自分なりの言葉で「まとめ」をできることが理想でしょう。
そのように考えていくと上の指示書は過剰に指示が書かれていることになります。
極力、指示を書かずに子供の手が動くようなしかけを考えていきたいですね。
文章の指示は伝わらない
さて、そもそもなぜ、過剰な指示を書いてはいけないのでしょうか。実は多くの先生方がきちんと認識できていない事実が子供たちの中にはあります。「境界知能」という言葉をご存知でしょうか。
私は障害についての専門医ではないので、詳細まで厳密に述べることは控えますが、知的障害や発達障害に準ずる軽度の障害と表現しておきます(若干の語弊等あるかもしれません)。
この「境界知能」に該当する子の存在は人口の十数%いると言われています。また、知能・発達の程度というのはグラデーションですので、境界知能からいわゆる定型発達と呼ばれる程度の範囲までもさまざまな段階があり、例えばIQが一定の数値以上であれば確実に文章を読解する力があると保障されるものではありません。
要するに、私たち大人・教師が「このくらいは読めるはず」「これくらいはむしろ読めるようにならなくては」と考えている範囲というのが、子供たちにとって非常に困難な場合が往々にしてあり得るということです。実際に私が目にした書籍や研究結果などでは境界知能といわれる知能指数の子の存在だけで十数%です。しかし実際には今回の話題にあるような資料を適切に読み取り指示が従えるレベルというのは残りの80%ほどかというと決してそんなことはありません。
部分的には読み取れるというレベルであればそれなりの子ができるかもしれませんが、きちんと全ての指示を読み取り理解できる子というと、公立小学校の場合で実際には学級のほんの数%〜多くて20%程度しかいないのではないかと思います(私自身の経験則に基づく)。
つまり、丁寧に書けば書くだけ子供にとっては読みづらく、わからない指示書になるのです。
そもそも教科書もきちんと読めばとても丁寧に書いてあるのになぜ、指示書が必要なのでしょうか。本当にその指示書が必要か、その指示は必要かということを吟味していただければと思います。
よりよい資料を作るための3つのポイント
説明・指示に使うフォントはコレ
小学校の先生なら資料作りの歳、WindowsでWordやExcelを使用し資料を作成することが多いでしょうか。
そんなときやってしまいがちなアンチパターンがあります。
みんな大好き「創英角ポップ体」!
ちょっと目立たせたいとき、Windowsの標準フォントの中で太くて目立ちそうなフォントということでついつい選んでしまいがちですよね。学年だよりやお手製ワークシートなどでよく見かけるフォントです。確かに太くてよく目立ちますし、なんだか手書きっぽいようなかわいさがあって、少し砕けた雰囲気を出したくて使いたくなるフォントですよね。
でも、このフォントの選択、実は子供にとって大きなハードルになります。
学習障害(ディスレクシアなど)を持つ子供にとっては特に、文字を認識する上で、アウトラインが変わると認識しづらいという特性があります。漢字ドリルで学ぶ漢字と教科書に使われている漢字で若干フォルムが違うといった指摘を耳にしたことはありませんか?
一部(決して少なくない数)の子供たちにとって、このフォントの差異というのはとても大きな差になります。近年、明朝体が好まれない理由の一つでもあります。また、角ゴシック系も認識しづらいようです。
そのため、教科書に用いられている、「教科書体」はとめ・はね・はらいなどのフォルムが明朝体ほど極端にならないように配慮されています。さらにそれでも文字のアウトラインが特徴的になることから、さらに研究され、昨今ではUDフォントというものが注目されるようになりました。
UDとはUniversal Design(ユニバーサルデザイン)のことで、UDフォントとは、ゴシック体をベースにスッキリした字形で読み取りやすいことを意識して作られたフォントです。
教材・資料のように文字量が多くなり、シンボルとしてではなく、情報伝達のための文章として利用する際のフォントは極力このUDフォントを使用することが好ましいでしょう。基本的に最新のWindows環境にはUD系フォントは標準で入っています。万が一UDフォントが使用できない場合は丸ゴシック系で代用するのが望ましいでしょう。
パターンを定着させる
資料の作り方として、毎回「今回はどんな指示がどんな風に書かれているのか」と構成から読み解きつつ、指示内容まで理解して、さらに学習内容を理解するのは子供にとって至難の業です。
資料の構成は常に普遍であるようにテンプレート化しましょう。
例えば、上の算数の学習のプリントの例であれば①〜④のステップがありました。このステップ数は毎回同じにするのです。
そして、各ステップの役割も常に同じにしましょう。
例えば、
- 前時の復習
- 今回の課題
- 類題の指示
- 学習のまとめ・ふりかえり
などといった構成にし、「①から始める」とか、「③は必ず今回の学習のパターン問題の指示がある」などがわかると指示する文言が最少にできるはずです。
他にもまだまだ意識すべき点はたくさんありますが、まずは、情報を詰め込みすぎないでシンプルに伝わるようにすることと、UDフォントを使い、視覚的にスッキリと見やすくすることを心がけて、子供たちの学習が苦痛にならないように最大限配慮していただければと思います。